セイウチ、南氷洋の空を飛ぶ―欧州捕鯨船団のスーパーマリン・ウォーラス

 1946年、建造成ったばかりのイギリス最新鋭の新造捕鯨母船"Balaena"(バラエナ/バリーナ,ホッキョククジラ属の意,15,303総トン)率いる捕鯨船団は、2機のSupermarine Walrusをボート甲板後端に搭載して出漁した。

公試に向かう捕鯨母船バラエナ
公試に向かうバラエナ(出典:Belfast Forum

 ちなみに、"Walrus"(ウォーラス/ウォルラス/ワルラス)はセイウチの意で、北極圏に生息する動物の名を冠した水上機が、南氷洋を飛ぶのも不思議なものだ。

セイウチ
セイウチ(鳥羽水族館,2014‎年‎11‎月‎9‎日筆者撮影)

 なお、用意されたのは計3機で、もう1機はケープタウンに予備機として残置された。 写真はバラエナで運用されるウォーラス。
 Walrus sjøfly(出典:PaaFeltet)

 この時バラエナに装備された航空艤装はカタパルトとクレーンで、左右両舷に射出可能なカタパルトはH.M.S. Pegasusから移設したもの、とされている。船尾に並ぶ円筒形のものは燃料タンク。

捕鯨母船バラエナの航空艤装
(出典:The History of Modern Whaling)

 それにしても、このやたら重厚なクレーンはどこかで見たような気がする。。。そう、戦艦KGVの格納庫あたりで。写真は水上機母艦ペガサス(旧名アーク・ロイヤル)からウォーラスが発進するところ。おそらく航空艤装一式を移植したのだろう。

アーク・ロイヤル (水上機母艦)'>アーク・ロイヤル (水上機母艦),Wikipediaより
水上機母艦ペガサス(出典:アーク・ロイヤル (水上機母艦),Wikipediaより)

 なお、発進は前述のカタパルトによったものと思われるが、揚収はフローティングマットを使用したようだ。

フローティングマット上のウォーラス
(出典:Flightglobal/Archive

 バラエナを紹介した書籍もある。内部構造も分かって興味深い。

 一方、オランダの改装捕鯨母船"Willem Barendsz (I)"(ウィレム・バレンツ,オランダ探検家の名,10,509総トン)も、この年、ウォーラスを搭載して南氷洋に向かっている。

ウィレム・バレンツ(I)
ウィレム・バレンツ(初代)(出典:ANP Historisch Archief Community

 こちらは露天駐機のようだが、この2機のウォーラスにはレーダーが搭載されていたようだ。写真の機の機首上面には方向探知機のものだろうか、ループアンテナが見える。オランダ国旗が半旗になっている理由は分からない。

ウィレム・バレンツ上のウォーラス
(出典:Piloot & Vliegtuig

 セイウチが南氷洋に居られた時期は短かった。イギリスのウォーラスは、1946-47年漁期に満足する運用成績を収めたにもかかわらず、バラエナの乗員居住区を増やす必要が生じたため、格納庫を居住区に改装することになった。

航空艤装撤去後の捕鯨母船バラエナ
航空艤装撤去後のバラエナ(出典:FLK «Balaena»,Wikipedia(no)より)

 ウォーラスは売却され、撤去されたセイウチのねぐらの跡は、人間が占拠することになった。ウォーラスは多くの有利な点を与えてくれたが、巨大な格納庫と甲板スペースを要求し、扱いにくく、そのうえ航続距離も限られていた。

 オランダのセイウチがどうしていたかはよく分からない。搭載されたものの、結局一度も使わなかったという話もあり、おそらく同様の道を辿ったのではないかと推測される。後年、ウィレム・バレンツを撮影した写真にウォーラスはいない。
 後にII世にウィレム・バレンツの名を譲ってブルーメンダール("Bloemendael",地名?)と改名し、中積油槽船に改装されている。

ウィレム・バレンツ(II)とブルーメンダール(旧ウィレム・バレンツ(I))
(出典:Nationaal Archief

 しかし、捕鯨船団の所有者達は、航空機の搭載によるアドバンテージを忘れた訳ではなかった。次の新たな試みとして、当時登場したばかりの回転翼機、ヘリコプターの母船搭載を検討することになる。。。が、それはまた別の物語となる。

-***-

 ちなみにこのバラエナとウィレム・バレンツ(I)、紆余曲折あって、それぞれ日本にやってくる。バラエナは1960年に極洋捕鯨が購入、第三極洋丸と改名し、1978年に解体されるまで北洋捕鯨などに従事した。

第三極洋丸(旧バラエナ)
(出典:第三極洋丸改造工事について,CiNii)

 ウィレム・バレンツ(I)→ブルーメンダールは1961年に日本水産と日東捕鯨が共同購入、日東丸として北洋捕鯨に用いたが、後に日本水産単独の所有となって1964年日栄丸に再度改名している。1966年解体。
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